Japanese Cuisine Professionals in Singapore

当初この記事を書くための取材は、ご協力いただいたMonzushi(紋寿司)・Yakiniquestのオーナーそれぞれの「Japanicationで提供するメニューへのこだわり」を紹介する目的で実施しました。しかし、話を聴き始めるとお二人それぞれのユニークすぎるバックボーンが浮き彫りとなり、Japanicationメニューにとどまらない、お二人が「お店に込めた想い」を深く知ることができる取材となりました。
そこで本記事は、Japanicationの範疇を超えて、彼らと彼らのお店の歴史・想い・こだわりより深くご紹介できればと思います。これらを知ることは、彼らが提供する味を何倍も楽しむエッセンスになることを、私たちは信じて疑いません。
Monzushi | 金子圭介
Neil Roadにお店を構える「Monzushi」は、1933年に東京で創業した「紋ちゃん屋」鮨屋台の創業者兼大将を祖父にもつ金子圭介さんがオーナー兼大将としてお店を切り盛りする、本格江戸前鮨のお店です。
初代・創業者が祖父、父が二代目という環境で生まれ育った圭介さんは、中学生の頃にはすでに出前や卵焼き作りを手伝っていたそう。日本の寿司職人の中でも珍しい、生まれながらの鮨職人です。
19歳で二代目の父に弟子入りして本格的に板前修行を始め、日本で修行を重ねたのち、さらなる成長を求めて30歳からはカタール・ニューヨーク・インドなど海外の鮨屋でさらに経験を積み、2018年に「紋寿司」初の海外店舗となるMonzushi Singaporeをオープンしました。
割烹着の着こなしや立ち振る舞い、包丁を手に魚に向かうその表情は、「鮨職人」と聞いて頭に浮かぶイメージと完全に合致します。いまも目黒の紋寿司で二代目 対象として腕を振るう父の教えと、祖父から脈々と受け継ぐ鮨屋の血が彼の中に流れていることを、感じざるを得ません。
圭介さんが教えてくれる「お店が大切にしていること」の節々からも、そのことを知ることができます。
「銭湯帰りにふらっと寄って帰る客もいれば、鮨を食べながら大将と飲むのが好きな客もいる、そんな鮨屋台がうちのもともとの始まり。だからうちは赤ちゃん連れもOKだし、気軽に飲むためのバーエリアもある。誰にでも来てもらえるような鮨屋っていうのを目指してる。」
「オヤジからよく言われたのは、とにかく客に正直であれ、ってこと。
Good qualityはもちろん、そのqualityを正直な価格で出すための仕入れの努力はだいぶしてるよ。Good price, good qualityがうちのコンセプトだからな。」

Japanicationで楽しめるバラチラシも、継承された伝統の想いがしっかりと反映された一品です。蓋を開けるとすぐに、300gのライスにたっぷりの具が乗った、大満足のボリューム感が目に入ってきます。
「足りなかった、とは絶対言わせない。大人2人で分けても良いくらいの量を入れてるからな。」
もちろん味にも伝統のこだわりが込められています。ご飯は紋ちゃん屋時代から受け継ぐ赤酢の酢飯ですが、日本と同じ材料が手に入らないシンガポールでは、独自のレシピで赤酢を手作りされているそう。しっかりした味付けに強めの甘みを感じられるのが特徴で、そのバランスには、生粋の鮨職人 圭介さんの研ぎ澄まされた理論が反映されています。
「甘い・しょっぱい・すっぱい、全部が一度に味わえるのがそもそもの鮨の味わいだからな。だから、粋な江戸っ子には銭湯で汗かいた帰りに屋台に寄って握りを食べて帰る、っていうスタイルが流行ったわけだ。」
鮨の味はもちろん、大将 圭介さんの人柄も魅力的なMonzushi。Japanicationでお楽しみいただけるバラチラシはもちろんのこと、お店で大将の人柄に触れながら味わう本格江戸前鮨もまた絶品です。
Yakiniquest | 石田傑
鮨屋の家で生まれ育ち、鮨職人の道を歩んだMonzushi 金子圭介さんとは正反対の、非常にユニークなバックグラウンドを持つのが、Boat Quayに店を構えるYakiniquestのオーナー石田傑さんです。
傑さんはもともと料理人でも、料理店の経営者でもなく、大手広告代理店に勤務するサラリーマンでした。ただ、傑さんは世のサラリーマンとは一線を画する点がありました。それは、「焼肉」の魅力に取り憑かれ、入社してから15年にわたり年間100回以上の焼肉屋訪問を毎年継続し、しかもその体験の詳細を正確に記録しているサラリーマンだった、という点です。その焼肉食べ歩きの記録を、「Yakiniquest」として自らブログ化して世の中に紹介、焼肉ブロガーとして知られるようになっていったことが、傑さんの飲食業界人としての原点です。
その後、Yakiniquestは焼肉の教科書とも言えるポジションをあっという間に獲得。焼肉ブロガーとしての仕事が増えていく中で「シンガポールでの焼肉屋出店」という話が傑さんのもとに舞い込んだのは2014年でした。サラリーマンをただ辞めるということにとどまらず、日本を飛び出して初めての店舗経営に乗り出す、というまさに大決断のもと、焼肉レストラン「Yakiniquest」は2015年に誕生しました。
Yakiniquestは1,500以上の焼肉屋体験の中で傑さんが至った「焼肉は日本の文化」「その文化をYakinikuとして世界に伝えたい」という想いをベースに作られたお店です。そのため、傑さんが体験した日本全国津々浦々の焼肉屋のエッセンスを込めた逸品で構成する「おまかせ」コースメニューを中心としたお店で、現在はアラカルト注文はコースへの追加のみになっています。
肉の質にこだわっているのはもちろんのこと、「焼肉最適かどうか?」にこだわっていて、一般的に最高級と言われるA5は「焼肉として焼くには脂が多すぎる」という考えから、あえてA4の肉で統一しています。
「アラカルトがないから、自分で頼みたい肉は頼めないし、なんとなく「高級」なイメージが先行しているA5の肉ではないし、特にローカルのお客さんに最初はなかなか受け入れてもらえなかった気がします。ただ、続けているうちにこのスタイルも定着してきて、いまではローカルのお客さんの方が多いくらいになりました。」
さらにこのお店の大きな特徴として、一般的な焼肉屋のように「客が焼く」のではなく、「お店が焼いてくれる」というスタイルも挙げられます。
「最初は、お客さんが焼く通常の焼肉屋のスタイルだったんだけど、焼肉がそこまで浸透していないシンガポールでは、お肉を焼き過ぎてしまうお客さんが多かった。焼き方ひとつで、本当に肉の味は変わるので。だからこちらで焼くスタイルに変えたんです。」
傑さんは1,500店の焼肉屋訪問の中で「どんな肉にどんな焼き方がベストか」をあらゆる角度から検証し尽くしてきたそうで、返すタイミング・焼き終えるタイミングはもちろん、どのような火で、どんな色・匂い・焼ける音がしたらどうすべきかを、肉の種類ごとに完全に把握しているそう。
「焼き方の検証を重ねて、いろいろわかってくると、肉の声が聞こえるんですよね。ひっくり返してー、とか、そろそろだよー、って。」
ジョークめかして言うものの、肉のポジションをこまめに変更しながら、時に網を回転させたりして手際良く肉を捌く彼の焼く姿を見ていると、たしかにそんなこともあるのかもしれない、と思ってしまいます。
Japanicationで提供するカルビ弁当も、そのこだわりの焼き方で、注文に応じて傑さんが一枚一枚、丁寧に焼き上げて仕上げます。
タレもまたポイントで、いわく「タレは焼肉屋の命」。肉によって複数のタレを使い分けており、タレのレシピは限られたスタッフにしか共有されていないそう。
カルビ弁当に使われているタレは中でも特別で、このメニューのみにしか使っていないのだとか。「脂が比較的多いカルビ肉とご飯、両方に最高にマッチするように」とゼロから手作りしているとのこと。口にすると、たしかにおっしゃる通り、カルビの脂身とライスと、まるでタッグを組んだかのようなしっかりした旨味が、わっと口の中に広がります。

「お店で焼いて食べるのが焼肉の醍醐味と信じているので…。ただ、デリバリーのメニューでお店に来たことがない人にうちの味を知ってもらうことができて、それをキッカケにしてサーキットブレーカーが明けてからお店に来てくれるお客さんもたくさんいた。肉が焼けない焼肉屋はいかに戦ったらいいのか、試行錯誤で苦しかったけれど、プラスもあった。」
そのことは数字にも裏付けされていて、もともと多かったローカルのお客さんの比率がサーキットブレーカーをきっかけにより増加、いまでは全体の70%を占めるまでに至ったそうです。
「この事実はとっても嬉しいですね。デリバリーメニューももちろん自信作ですが、やっぱりお店に来てもらえるのが嬉しい。ここでは語り尽くせていない焼き方のこだわりもたくさんあるので、ぜひ見て・味わって、楽しんで欲しいですね。」
肉を探究し続ける男が焼く焼肉レストラン。ぜひお店で堪能してもらえればと思います。
Monzushi
13 Neil Rd Singapore 088810
+65-6227-7088
http://monzushi.com/
Yakiniquest
48 Boat Quay, Singapore 049837
+65-6223-4129
http://www.yakiniquest.sg/